日本の外国人労働者への規制の流れと技能実習制度のゆくえ

日本における外国人採用は、この10年で劇的に重要性を増してきました。人手不足が慢性化し、生産年齢人口が急速に減っていく日本にとって、外国人材はすでに不可欠な存在です。一方で、政治的には受け入れ規模の拡大を疑問視する声や、制度そのものを見直す議論も活発化しています。現在、外国人労働者を巡る議論は大きな転換点を迎えています。

当コラムでは、最近の政治的な議論、日本社会の受け止め方、技能実習制度を取り巻く問題とその背景、そして今後の外国人採用はどう変化していくのかを整理し、外国人人材紹介に携わる企業の視点から展望していきます。

目次

外国人受け入れ数をめぐる政治的議論

2025年秋の国会では、外国人受け入れ政策を巡って活発な議論が行われていました。

確かに、外国人の受け入れ数の増加に伴い、日本の社会保障や治安への影響といったいくつかの問題は浮上しています。しかし、だからといって「受け入れ縮小すれば良い」という単純な問題でもありません。なぜなら、建設・介護・製造・宿泊といった主要産業は、すでに外国人労働力を前提に経営計画を立てているからです。多くの地方企業にとって、外国人材は「代替可能な選択肢」ではなく「事業継続の前提条件」になってきています。

政治的には外国人労働者をめぐる慎重論が根強く存在しますが、産業界の実情は「受け入れ縮小は現実的ではない」という方向に傾いています。

技能実習制度を取り巻く問題とその背景

外国人労働の議論で避けて通れないのが「技能実習制度」の問題です。制度の理念は「国際貢献」とされていますが、実態は長く“低賃金労働力の受け皿”として批判されてきました。

特に深刻なのが失踪問題です。PRESIDENT Online の記事でも、技能実習生(主にベトナム人)の大量失踪について専門家が「そもそも母国語の読み書きも十分でないケースがあり、日本語習得以前の問題を抱えたまま送り出されている」と指摘しています。また、制度上の賃金格差や職場環境の偏りも失踪の大きな要因となっています。

日本語どころか母国語の読み書きがおぼつかない…専門家が指摘「技能実習生が大量に失踪する本当の理由」 ーPRESIDENT Online

失踪が発生する要因は以下のような点が挙げられます。

  1. 不当な送り出し機関・ブローカーの存在
    現地で暗躍する不当なブローカーが知識のない求職者に不正確な説明を行い、日本に送り出した後はサポートを行わないため失踪に至ってしまうケース。
  2. 日本側の受け入れ現場の負担と管理体制の限界
    受け入れ企業が外国人材の生活支援まで十分に担えない状況が発生しやすい。
  3. 実習先と本人の期待のギャップ
    「日本に来れば高収入」という誤解が残り、現実との落差で失望が生まれやすい。

これらは制度自体の構造的課題でもあります。

制度改革による「技能実習」から「育成就労」への転換

こうした問題を受け、政府は技能実習制度を廃止し、2027年から新たに「育成就労制度」を用意します。新制度のポイントは以下のとおりです。

  • 職種間の転籍を条件付きで認める
  • 日本語教育を制度上の必須要素として強化
  • 本来の「人材育成」の目的に立ち返る
  • 中長期のキャリア形成を前提にする

これにより、従来の“閉鎖的な制度”から“労働市場に開かれた制度”へと大きく舵が切られます。

企業側にとっても、より実践的なスキルを持った人材の確保がしやすくなり、人材紹介会社にとっても、新たなマッチング機会が拡大していくことが期待できます。

外国人材市場は「量から質」へ移行していく

今後の外国人採用で最も大きな変化は、単なる人数確保ではなく、「育成」「定着」「キャリア形成」を重視した運用へ移行していく点です。

これは企業側にとってもメリットが大きく、具体的には以下の効果が見込まれます。

  1. 離職・失踪の減少
    日本語習得支援やキャリア視点の導入は、短期離職のリスクを減らす。
  2. 能力の高い外国人材の選択が可能に
    新制度に合わせて送り出し国の教育の底上げも進む可能性がある。
  3. 企業ブランド向上
    外国人材の育成に積極的な企業は、国内外から評価されやすい。

外国人採用はこれまでコストと捉えられがちでしたが、今後は“投資”として捉える企業が増えていくことでしょう。

外国人人材紹介に求められる価値の変化

制度改革により、外国人人材紹介会社にも新たな役割が求められます。

  • 単なる「採用仲介」ではなく、「育成・定着支援」の提供
  • 国ごとのリテラシーや教育事情の把握
  • 企業と外国人材の双方に対するキャリア設計支援
  • 日本語教育や生活支援のパートナーとしての機能強化

つまり、人材紹介は“就労ビザの手続き代行”ではなく、“外国人材の成功プロジェクトを実現する総合支援”に進化していきます。

こうした変化は、企業にとっては心強いサポートとなり、外国人材にとっては「働きやすさ」と「長期的な安心」を提供することにつながります。

外国人材の未来は「ネガティブ」ではなく「可能性」に向かう

外国人受け入れに対する慎重論や制度上の問題は確かに存在します。しかし、その一方で、日本企業の現場では外国人材が不可欠な戦力となり、地域社会でも多文化共生が進みつつあります。

たとえば介護現場では、温かい人柄を評価される東南アジア出身のスタッフが増え、製造業では技能の高いエンジニアが日本の品質レベルを取り込んで母国企業で成功するケースも出てきています。

外国人材の活躍は、ネガティブなことではなく「双方の成長機会」へと変わりつつあるのです。

まとめ:外国人採用は新時代へ

Image via Nano Banana Pro

今後の外国人採用は、単なる労働力確保から、中長期的な企業戦略の中核へと進化していきます。

  • 技能実習制度の問題点は、制度改革により大きく改善される
  • 日本の政治には慎重論があるが、産業界は受け入れ維持・拡大が不可欠
  • 外国人採用は「量から質」「即戦力から育成」へシフトする
  • 人材紹介会社には“定着と育成”まで支援する役割が求められる

外国人材は、これからの日本の成長に欠かせないパートナーです。制度改革の流れを正しく理解し、企業も外国人材も双方にとって価値ある環境を整えていくことで、日本社会全体が新しい段階へ進んでいくはずです。

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